原状回復は原則、貸した時の状態に戻すということです。ただし、経年劣化や通常利用範囲での損耗は、基本的に原状回復不要な内容になります。昔の賃貸借契約書で経年劣化や通常損耗についての回復義務を明記しているケースもありますが、現代社会では無効と考える事が主流です。つまり、本当に新品同様の状態に回復するためには、原状回復工事が終わって返却を受けた後、オーナー側で手を入れないといけません。
壁や巾木の汚れ、床の損耗などを綺麗にしようと思えば、それなりの投資や工事期間が必要ですので、オーナーによっては、原状回復を受けた状態でリーシングしようと判断する方もいると思います。「汚れた状態」で貸すわけですから、当然、借りる側から値踏みされる可能性があります。需給バランスや引き合いも考慮に入れての、難しい判断になります。
オーナー側が何もしなければ、テナントが入退去を重ねるたびに、経年劣化や自然損耗は積み重なっていきます。
入退去の都度、内装工事を入れて新品同様にする考え方があれば、何回目かの入退去分をまとめてリセットする考え方もあります。いずれにしても、どこかの時点で原状回復「以上のこと」をしなければ、新品同様にはなりません。
「グレードアップ」は、元あったもの以上の機能を付加したり、機能を有するものに交換したり、という行為を指します。テナント入れ替えのタイミングで、蛍光灯をLED照明に変えるのはグレードアップです。しかし、経年劣化や自然損耗を「無かった状態」に戻すのは、グレードアップではありません。「竣工時」の状態に戻すだけだからです。
「第二次原状回復工事」とも呼べるこの工事は、オーナー工事(A工事)になります。たまたまそのタイミングでグレードアップ工事の実施計画があれば、併せて実施してコストメリットを出す方法もあると思いますが、テナントの入れ替えは予測の付かないものですので、所有資産の現在価値を睨みながら、投資想定をしておく必要があります。